婚約指輪・結婚指輪
婚約指輪を選びに来たカップル
私、田中愛は婚約指輪・結婚指輪の専門店で務めている。今日も一組のカップル、町田孝也と緒方真子がやってきた。
いつも通り接客し、ご希望に沿う指輪を探しながら二人のことを聞いていく。
知人の紹介で出会ったという二人は結婚を前提にお付き合いをはじめて数か月で婚約に至ったとのこと。
指輪選びは順調に進み、二人は気に入った婚約指輪を購入した。
ごく普通の幸せそうなカップルだったが、数か月での結婚を決めた理由を真子が「お母さんが『いい』と言ったから。」と言っていた事が少し気になった。
母親からのクレーム
翌日、店舗の電話が鳴った。「田中さん、緒方真子の母親という方からお電話です。なんだか、すごく怒っています。」と言われ、『あぁ、嫌な予感が的中してしまった』と心の中で思いながら、電話に出た。
「お電話代わりました」
「ちょっと!あなたうちの子に勝手に婚約指輪を売りつけてどういうことよ!」
「緒方真子様のお母様ですね?失礼ですが、売りつけるとはどういうことでしょう?」
「まだあんなに若い子に高価なものを、勝手に買わせて!親の私の許可も無く、何を考えているの?キャンセルするから!」
一応説明しておくが、真子はもうすぐ30歳だ。
これではまともな会話は無理だと判断し、契約の話は当人しかできないことを伝え、なんとか電話を切った。
これは大変なことになるなと思いながら、私は町田孝也に電話をかけた。
結婚をやめます
次の週末、契約の話をするため再び二人に来店をしてもらった。想像通りとてつもなく重苦しい空気の中、私は、改めて一通り起こったことを説明し、二人はどう思っているのかを尋ねた。
孝也は「正直頭の整理が追い付いていませんが、とりあえずお義母さんを落ち着かせたいので、指輪の取り置きは可能ですか?」
とのこと。
私もまったく同意見だ。
一方、来店した時から不機嫌な様子だった真子は、「早くキャンセルしてください!もう結婚をやめるんです!」と。
そして、「お母さんがそうしなさいって言ったから!」
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お母さんは間違わない
一瞬真子の発言に戸惑ったが、私は「真子さんはどうしたいのですか?」と尋ねてみた。真子は「お母さんの言うことは今まで全部正しかった。
お母さんが結婚するなというなら、そうするべきだと思う。」
そこで孝也が「お母さん関係ないだろ!真子はどうしたいかって聞いてんだよ!」と、真子との口論が始まりそうになったため、慌てて止めた。
とりあえず指輪の話ができる状況ではなかったので少し二人で話し合ってもらうことになり、その日は終わった。
その後は、何度もお母様からお怒りの電話がかかってきた。
迷惑行為ということで、その後は上司が対応したため詳しくはわからないが、最終的には指輪はキャンセルになったので、破談になったのかもしれない。
今まで出会ったお客様の中でも、とても印象に残った二人だった。