心霊スポット
深夜の心霊スポット
若手会社員の西川慶介は福岡で営業の仕事を終え、自動車で熊本に戻っているところだった。「遅くなったなー」と一人でつぶやいてしまう。
日付が変わってしまったが、自宅まではあと2時間はかかる。
走行しているのは片側一車線の暗い田舎道。
民家は見当たらず街灯もないし、他に通行している車両もない。
雨こそ降らないが空は雲に覆われており本当に真っ暗だ。
「この辺は速く通過してしまいたい」と思いながら、ステアリングを握る手に力がはいる。
この辺りに地元で有名な心霊スポットがある。
西南戦争の跡地があり、色々な心霊体験が後を絶たない。
慶介はそういった話を信じる方ではないが、深夜に一人でそんなところにいるとさすがに気味が悪い。
» 危険な心霊スポットの犬鳴トンネルでの体験談
追いかけてくるバイク
心霊スポットを通過してしばらくしたところで、慶介は何気なくルームミラーを見てギクッとした。なんと後方に1台のバイクがいたのだ。
中型のバイクらしいということ以外はよく分からない。
しかし慶介を最も驚かせたのはそのバイクが無灯火で、しかもかなり車間をつめて走行していたからだった。
こんな真っ暗な道路を無灯火で走行しているというだけで異様なのに、辺りが心霊スポットに近いということが恐怖心を煽った。
「何だよこれ、マジかよ」。
一体何がしたいんだ
なんとか振り切ろうとして慶介はアクセルを踏み込んでスピードをあげた。しかしバイクもそれに合わせスピードを上げるため、2台の距離は全く変わらなかった。
ルームミラーにヘルメット姿のライダーがうつっているがもちろんその表情は確認できない。
想像してみてください。
深夜に心霊スポット近くを一人で走行中に、無灯火のバイクがずっと後方にはりついて離れない・・・「一体何がしたいんだ」。
焦る慶介は更にスピードを上げたが、ルームミラーに映るバイクの影が小さくなるとこはなかった。
ライダー坂本研一の気持ち
慶介の自動車をバイクで追いかけているライダーは大学生の坂本研一。心霊スポット巡りが趣味の彼は、今日も一人でその心霊スポットを訪れ帰るところだった。
「まあまあだったな」。
研一はのんびりとした性格で、心霊スポットにも全く気後れしない。
バイクにまたがりエンジンをかけた。「あれ?」。
バイクのライトが点灯しなかった。
「まいったな」。
こんな真っ暗なところをバイクで走行するのは、さすがの研一もごめんこうむりたい。
慶介の自動車が研一の目の前を通過したのはそんな時だった。
「しめた」。
研一はすぐにバイクを発進させ、自動車の後方にはりついた。
自動車のライトで前方が見えるためなんとか走行できる。
しかしほっとしたのも束の間、自動車はどんどんスピードをあげていく。
ほとんど気が狂ったようなスピードだ。
しかし研一も振り切られる訳にはいかないため必死でくらいつく。
これを逃したら山の中で夜を明かすはめになりかねない。
それぞれの思惑を胸に、台のデッドヒートは明るくなるまで続いたのだった。